「人の通り道」と「雨落ち」づくりで、大地が呼吸する庭へ
山梨県大月市にある「小さな防災の家」は、30年以上放置されていた小さな平家と畑を、手作業で少しずつ整えてきた場所です。地域の方々、職人さん、大地の再生メンバーなど、多くの人の手を借りながら、「自然と調和した庭づくり」を実践しています。
今回の大地の再生講座では、敷地の入り口から玄関・デッキへと続く「人の通り道」と、デッキ前の「雨落ち」の施工を、参加者全員で行いました。
人の通り道づくりの背景
かつて、玄関へと続く通り道には、U字側溝の蓋として使われていたコンクリートの平板が隙間なく並べられていました。おそらく、雨天時の泥はねや水たまりを防ぐ目的で設置されたものでしょう。
しかし、このように平らに均した土の上に平板を乗せると、通気・浸透機能が潰れてしまい、地中の水はけが悪くなり、好気性の植物も育ちにくい環境になります。
過去数年にわたってこの場所では、
- 平板を取り除き
- 水脈や点穴を整え
- 風の草刈りを通して植物の根を育てる
といった手作業の改善を重ねてきました。こうして、水と空気が地上と地下を行き来できる“呼吸する大地”へと回復させてきました。
そうして整えた大地を、日常的な人の往来でも踏み固めず、呼吸を守るため、加えて景観の美しさも取り入れるため、人と大地、両者にとって快適な通り道をつくることになりました。

自然素材を使った、循環型の道づくり
一般的に道をつくる際は、コンクリートブロックや枕木などをホームセンターで購入しがちですが、今回は「外から新たな資材を持ち込まない」という考えを大切にしました。
使った素材は、かつて敷いていたコンクリート平板や、敷地内にあった瓦やコンクリートブロックなど。廃棄予定だったものが、再び新たな形で命を得ていきます。こうした循環の在り方が、自然との共生のひとつのかたちです。
<施工の流れ:人の通り道>
- 地面を削る
平板が水平に置けるよう、あらかじめ地面を調整。 - 焼き杭と点穴
平板の沈下を防ぐため、削った箇所に焼き杭を打ち込み、周囲にはグリグリ(ロングマイナスドライバー)で穴をあけて燻炭と藁を投入。地中に水と空気が通る道を確保します。 - 地表層の整備
その上に石や竹炭、落ち葉を敷いて通気通水層を形成。 - 平板の設置
平板の下に砕いた瓦を敷き、安定させました。ちなみに、平板を歩くと焼き杭が振動し、地中の通気浸透機能を保ちます。 - 仕上げ
平板の周囲には瓦チップを撒いて均し、完成です。
施工中は参加者同士で位置や高さを確認しながら、丁寧に1枚ずつ据えていく結作業となりました。




▼道づくりの様子はこちら(インスタグラムリール動画)
雨落ちづくり〜雨と共にある庭へ〜
次に取り組んだのが、デッキ屋根から落ちる雨が集まる「雨落ち」の整備です。

雨が一点に集中すると、地面をえぐり、水たまりやぬかるみを引き起こす原因になります。そこで、盛土による対処ではなく、水と空気の流れを妨げない自然な治水施工を行いました。
<施工の流れ:雨落ち>
- 溝を掘る
断面は斜めにせず、垂直に掘ることで、泥アクが底に流れ込まないようにします。 - 素材を敷き込む
焼き杭を打ち、燻炭、割った瓦、藁、砕いたコンクリートブロックを投入。素材はいずれももともとその場にあったもの、または周辺で廃棄予定だったものを使用しました。
瓦チップは無造作に入れるのではなく、空気を巻き込むように「パラパラ」と自然に落とし入れるのがポイント。一つひとつの素材の間に空気の層ができ、通気性を高めます。


▼雨落ちづくりの様子はこちら(インスタグラムリール動画)
自然に対して「優しい一歩」を
今回の講座を通じて、参加者の人たちと意識したのは、作業中の一歩一歩が大地に影響を与えるということ。
施工の方法に集中せず、「自然にとって不自然ではないか」「この一歩が土を傷めないか」——そんな問いかけを常に持ち、自然と共に生きる姿勢そのものを、参加者の人たちにご体験いただきました。


今後も「小さな防災の家」では、講座やワークショップを開催していきます。