[レポート]大地の再生講座・工事〜土と水と生き物と触れ合い、自分たちの手で整える暮らしの場

「自分の家の庭を、もっと心地よく自然豊かな場所にしたい」

「仲間と学びながら、環境改善に取り組んでみたい」

そんな想いをもった方々とともに、山梨県北杜市の自然豊かな個人邸にて、大地の再生講座・実践工事を行いました。

今回の講座では、「暮らしの場」を自分たちの手で整えることをテーマに、土・水・空気・植物・人が呼吸し合える庭づくりに取り組みました。

▶当日の講座の様子はこちらのリール動画からもご覧いただけます

現場は赤岳の麓、標高1,200メートルの個人邸

今回の舞台は、八ヶ岳連峰・赤岳の麓、標高約1,200メートルの場所にある個人宅。

周辺には田んぼが広がり、もともと水の豊かな土地です。

かつては、山から流れる水を水田や溜池、支流を通じて下流へと循環させる知恵が根付いていましたが、現在はコンクリート整備によって水と空気の通り道が遮断され、地域全体で地中水の滞留が起きやすい状況が見受けられます。

この個人邸も、開発によって造成された住宅地の一角にあり、長年、水はけの悪さが課題となっていました。

継続可能な庭づくりへ〜施主自身が手を入れられる場を目指して

本講座の大きなポイントは、オーナーさま自身が、日々の暮らしの中で手入れと観察を続けられる庭づくりを行うことです。

敷地裏の施工前。人の手作業で持続していける方法で改善を進めました。
敷地裏の施工前。人の手作業で持続していける方法で改善を進めました。

大人数で一時的に整備することはできますが、継続的なメンテナンスができなければ、環境は再び停滞します。

「自分の暮らしのペースに合った作業を、コツコツと積み重ねていく」——その積み重ねが、自然との対話となり、環境を育てる力となっていきます。

フィールドワーク:まずは敷地全体の観察

講座冒頭では、参加者全員で敷地を一巡。

すでに施主さんご自身で「風の草刈り」に取り組まれていたため、敷地全体は比較的落ち着いた状態でした。

しかし、地表の湿気や締まりすぎた土質が見られたため、通気・浸透機能の改善を目的とした水脈・点穴の施工を実施。

水脈に数メートル間隔で点穴を入れていきました
水脈に数メートル間隔で点穴を入れていきました

土中に空気と水が通る「脈」を通すことで、植物の根が生育しやすくなり、土壌の団粒化も進みます。

土中のサインを読み取る:点穴と水脈の施工

掘削を始めると、わずか5cmほどの深さで大量の根が。

敷地周辺の水脈を入れているところ。表層の根が目立ちます。
敷地周辺の水脈を入れているところ。表層の根が目立ちます。

これは、地中が固く、植物の根が地表近くに集中していることの表れです。

  • 三角ホーやみつぐわを使い、手の感覚で土質の変化を探る
  • 土の層の変化点や硬い層を基準に、水脈を掘り下げる
  • 水脈には数メートル間隔で点穴を配置
  • 木の根まわりには大小さまざまな点穴を追加

このようなポイントで、作業。

表層の植物と高木の根が、地中で脈をつなぎ、循環していける環境を育てていきます
表層の植物と高木の根が、地中で脈をつなぎ、循環していける環境を育てていきます

斜面から流れてくる水が、敷地内を抜けていくように導線を作るだけでなく、高木の根まで水と空気が届くようにすることで、地下の循環機能そのものを再生していきます。

屋根の雨水処理・土留めの花壇づくり

屋根から落ちる雨水の侵食を防ぐため、表層5cmほどの浅い水脈を設け、水が自然と地中に浸透しつつ、下流へ流れるように施工。

敷地奥には、剪定枝と焼き杭を活用して土留め機能を持った花壇も造成。

斜面を段切り、水脈を入れたあと、焼き杭と枝を用いて土留めの花壇に
斜面を段切り、水脈を入れたあと、焼き杭と枝を用いて土留めの花壇に

斜面からの泥水を吸収・ろ過し、同時に植物が育つことで、土中の循環が強化される構造としました。

敷地裏の施工後、土留めの花壇ができました。
敷地裏の施工後、土留めの花壇ができました。

水場の改善:身近な素材でつくる、浸透型の水処理スペース

既存の水場では、水道使用時に地面が削られ、水が滞留してしまう問題がありました。

水道に深い点穴をあけて、石・落ち葉・炭で浸透型の水辺に改善
水道に深い点穴をあけて、石・落ち葉・炭で浸透型の水辺に改善

この課題に対し、

  • 現地にある炭、落ち葉、石を用い、浸透型の水場を施工
  • 地中に水が吸収されやすく、流れが滞らないよう設計

自然の素材を活かすことで、その土地になじみ、手入れしやすい水場となりました。

完成した水場
完成した水場

講座を終えて:地域の点が線へ、線が面へ広がる可能性

今回の講座には、北杜市および周辺地域から多くの参加者が集まりました。

一つひとつの現場は小さくとも、それぞれの敷地で大地の呼吸が戻ることで、周囲の植物たちが息を吹き返し、地中の脈がつながっていきます

「点」がつながり「線」となり、やがて「面」へと広がる——

そんな環境改善の流れを、地域の仲間たちと協力しながら進めていくための第一歩として、今回の講座が機能していれば幸いです。

自然と共に暮らすとは、自然と共に整えていくこと。

自分たちの手で、少しずつ整えていくこの作業が、いつか地域全体を支える流れへとつながっていく——

その希望を、改めて感じさせてくれる時間となりました。

施主さんの声

施工から数日後、施主さんよりうれしいご報告をいただきました。

一昨日から昨日にかけて、早速大雨が降りました。
朝、窓を開けた瞬間「いつもの雨の日」とは明らかに違い、場の空気が軽くなっているのを感じて驚きました。庭に出て水脈をたどると、湿気がこもらず、何かが確実に変わったと感じられます。

ギボウシも元気を取り戻し、葉を大きく広げてとても気持ち良さそうにしています。

また、偶然かもしれませんが、皮膚や粘膜が敏感な我が家の猫の調子も良くなりました。
空気の流れや場の澱みの変化が、私たちにも動物たちにも、何かしらの良い影響を与えているのかもしれません。

これからも、雨落ちづくりやウッドデッキ下の整備など、少しずつ手を入れていこうと思っています。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

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