はじまりは、行き場を失った果樹たちの「緊急救出」
事の発端は昨年(2025年)の夏。東京都国立市で長く市民に愛されてきた有機農園が、農園主の逝去にともない閉園し、宅地造成されることになったという悲しい知らせでした。
「大切に育てられてきた果樹のいのちが、人の都合だけで終わってしまう。造成される前に、少しでも救出できないだろうか」
樹木は、地上と地下の空気と水の循環を促し、あらゆる生きもののいのちを支え育む「循環の要」です。その土地でいのちを全うできないのなら、せめて次の土地へつなぎたい。そんな願いから、大地の再生 関東甲信越支部による果樹の緊急救出・移植プロジェクトが立ち上がりました。

移植には多大な手間や費用がかかり、引き受け手を見つけるのも至難の業です。
しかし、私たちが環境改善に関わっていた山梨県南アルプス市の施主・石田さんが「植える場所はあります。果樹のいのちを救いたいです!」と力強く名乗りを上げ、里親となってくださったのです。
資金集めは後からクラウドファンディングで募ることとし、造成工事が始まる直前の11月末、メンバー総出で掘り取り・運搬・植え付けの救出作業を敢行。柿、りんご、桃、オリーブなど13本の果樹が、無事に南アルプス市へと引っ越しを完了しました。

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新たな大地で芽吹いた命と、次なる課題
皆さまの温かい想いとご支援が通じたのか、それに呼応するように、春を迎えた果樹たちは無事に新しい土地で活着し、かりんやアーモンド、桃などが力強く芽吹き、美しい花を咲かせてくれました。

しかし、果樹たちがこれからも健やかに育ち、多くの人や生き物が行き交う豊かな場として育っていくためには、移植して終わりではなく、土壌環境の根本的な改善(メンテナンス)が必要不可欠です。
そこで今回は、2日間にわたる大地の再生講座・工事で、敷地全体の水脈整備を実施しました。
果樹の生育を阻む「大地の呼吸不全」を改善する
南アルプス市の現場は、もともと石が多く本来ならば水はけが良いはずの環境です。しかし、長年の開発や踏圧の影響で表層の土が地層のように固く締め固まり、地中の通気・通水が滞ってしまっている場所が至る所に見受けられました。その影響で、一部の樹木の生育が思わしくない状況もありました。

石田さんがこの土地に移られた際も、長年の踏圧で地面がガチガチに固まっていたそうです。水はけが悪く、雨が上がった後もいつまでも窪地に水が溜まったままの場所が目立っていました。
土が締め固まり、通気・通水(水と空気の循環)が滞ると、地中が酸素不足になります。水が長く滞留することで土壌が嫌気状態となり、有機物の腐敗や有害物質の発生を招きます。これが樹木の「根腐れ」を引き起こし、生育を著しく阻害する大きな原因となってしまうのです。
これを根本から改善するためには、敷地全体の地形を読み解き、滞った水と空気の道である「水脈」を通していく必要があります。水脈から雨水が穏やかに地中へ染み込み脈を形成し、その脈がさらなる脈へと繋がっていくことで、「大地の呼吸(水と空気の循環機能)」が高まります。呼吸を取り戻した大地にこそ、樹木は健やかに根を伸ばすことができるのです。

重機と人の「手」を合わせた、結(ゆい)の作業
今回は、地域内外から延べ30名の方々にご参加いただき、水脈整備を進めていきました。

今回の現場では、深さ20〜30cmの水脈を敷地全体に網の目のように張り巡らせる計画です。長年の踏圧で固まった表層部を開くには、最初にある程度の「大きな力」が必要となるので、まずは重機の力を借りて開いていきます。

重機が粗く開いたあとは、細かい作業が得意な「人の手」の出番です。
一部が深すぎたり広すぎたりしないよう、また、均一で直線的な溝にならないよう、自然界の川に見られるような不定形な「流線型」を意識しながら、三角ホー等の手道具を使って水脈の形状を敷地全体へと広げていきます。

水脈に組み込む有機資材には、敷地内やご近所の樹木の剪定枝を利用しました。

一般的にはお金をかけて廃棄処分されてしまう枝葉も、大地の再生においては土中環境を整える大切な「財(資源)」として敷地内で価値に変えることができます。
自然の素材で水脈と土壌を育てる
水脈には、剪定枝を柵(しがら)ませるように入れ込んでいきます。これにより、水脈に「通気・透水・保水・泥越し(フィルター)」といった重要な機能を持たせます。
現場は全体的に水分が多いため、枝を入れすぎて地中が過湿・嫌気化しないよう、バランスを見極めながら丁寧に作業を進めました。

「炭を撒く人」「枝を組む人」「枝葉で水脈の肩(フチ)の部分を仕上げる人」「整地をする人」と、参加者それぞれが自然と役割を分担し、流れるような協働作業(結の作業)で進んでいきます。

水脈を仕上げた後は、周辺の土をみつぐわで優しくほぐし、炭とウッドチップで整地しました。
表土が裸地のままでは、乾燥しすぎたり、雨による泥はね(泥アク)で土の表面が目詰まりを起こしてしまいます。ウッドチップをグランドカバー(マルチング)として撒くことで、適度な水分が保たれます。これにより、炭、水、空気、有機物が調和し、土壌生物や微生物による分解が促され、ふかふかの土へと変わっていく「団粒化(だんりゅうか)」が促進されます。


呼吸を止めない「柵の花壇づくり」
水脈づくりと並行して、敷地内にある丸太や石を使い、参加者でアイデアを出し合いながら2つの畝(花壇)づくりも実施しました。
土を盛った畝は、そのままにしておくと雨風で崩れてしまいます。しかし、木の板などで密閉された枠を作ってしまうと、板に接している部分から土壌への「水と空気の出入り」が遮断されてしまいます。
そこで、畝のキワに水脈を作り、炭と枝で通気口を確保。さらにそこに杭を打ち、枝を編み込むように柵ませて高さを出す編み込みの仕方を用いました。こうすることで、土留めをしつつも畝全体がしっかりと呼吸できるようになります。

完成した畝には、さっそく野菜を混植しました。今後の野菜たちの成長がとても楽しみです。



▶︎ 講座の様子はInstagramリール動画でもご覧いただけます。
次なる季節へ。育ち続ける場とコミュニティ
大地の再生の施工が入る前の敷地の状態をご存知の方たちからは、「場の見た目だけでなく、空気感が心地よいものに変わった」と口を揃えておっしゃっていただきました。

今回の2日間の作業を経て、果樹の足元を支える土台にしっかりと「呼吸」がもたらされました。ひきつづき、地域の方々との連携を中心に、日々の観察とメンテナンスを継続していただきながら、果樹たちと大地をゆっくりと育てていっていただければと思います。
次回の南アルプス講座・工事は、10月に開催を予定しています。
2日間の講座工事を終えて
【施主・石田さんより】
敷地全体に風が通るようになり、小さな草たちから大きな木の枝葉まで、すべての植物が風で揺れ動くようになりました。呼吸がしやすく、やわらかな風を感じる心地よい場となり、大地が呼吸を取り戻す変化を感覚としても感じています。
約2年間、自分なりにガチガチの大地と向き合ってきましたが、私の力だけでは改善できないかもしれないと、心苦しさを抱えていました。しかし今回、「大地の再生 関東甲信越支部」の皆さまが、我がことのように寄り添い、敷地全体の水脈を通してくださったことで、停滞していた状況を大きく打破することができました。
2日間の講座での結の作業、人の想いが重なるときの大きなパワーと一体感はとても心地のよい時間でした。宇宙、大地、樹木、人、その場に関わるすべてに想い想われ、生かされており、感謝が溢れてきました。
日々、皆さまと整えた場で暮らし、大好きで大切な皆さまの想いもエネルギーも感じています。丁寧につないでいただいた大地を、これからも暮らしの中で整えながら、大切に育んでいきます。場を整える大切さと、私の手の届く範囲でできることを施せる嬉しさを胸に、これからも一歩ずつ向き合っていきます。
たくさん笑って、心が満たされる、本当に気持ちのよい幸せな2日間でした。
一緒にこのような場をつくりあげて下さり、ありがとうございました。
この場に関わってくださったすべての皆さまに、心より感謝申し上げます。
【参加者さまからの声】
みんなの笑顔が溢れて、一緒に手を動かすのが喜びでした。学ぼう、いかそう、取り入れようと意気込んで参加したけれど、そうではなくて、ただただ今ここの喜びを感じる。そんなリラックスして過ごすことが今の私に必要だったと帰宅してから気づきました。 職人さん達の在り方も、気づきがいっぱいでした。丁寧な説明をしてくれて、その姿がとても楽しそう!みんな笑顔で、伝えることを、大地の上にいることを喜んでいるんだなと思いました。話の内容より、在り方が印象的でした。あの場にいなければ感じられなかったことでした。私の中に、ただただ喜びとして確かに刻まれました。本当にありがとうございました!
内容をよく把握していないままの参加で、私が参加して大丈夫なのかなと思っていましたが、まずは「体験すること」が近道だったような気がします。地中から宇宙へ、宇宙から地中へ…と、壮大なイメージが湧き、大地の再生の活動は大きな学びの場でした。そして、親方の熱い思い、マキコさんの物凄い逞しさと情熱に感動してしまい、色々なお話しが聞けて、大変貴重な時間でした。貴重な出会い、活動を知ることができて、本当に感謝です。ありがとうございました。移植後の果樹、花壇の変化が楽しみです。
感謝でいっぱいです。エネルギーが共鳴して、みんなからたくさん頂きました! 出会いと、人と人をもつなぐ結、参加できて感謝いたします。大地のエネルギーをいただけて、元気です。
大地の再生の講座に参加して、私は本当に自然が大好きなんだ!と、とてもよく分かりました。そして、あの場に集まったみんなが自然が大好き!って思っている人たちで、大好きで大好きで大好きで、その思いがあの場所でひとつになっていて、とっても幸せでした。自然にこんなにも愛されている私たちは幸せすぎます。このような素敵な会を開いてくれてありがとうございます。
みなさんとご縁で繋がっていることが奇跡でもあり、でも確実な感覚でもあり、なんとも不思議で愉快な繋がりが宝物だと改めて深く感じ、またみなさんと自然で遊びたい!と思いました。大好きな人たちと大好きなことをして、大好きなものも食べて、フル満タンです。このような場をつくってくれて、ありがとうございました。


