[レポート] 樹齢500年の大欅と地域再生への視座(大地の再生 矢野智徳の見立て)

2025年7月、大地の再生 関東甲信越支部は、山梨県大月市梁川町を訪問し、地域の自然環境や歴史的資源を活かした再生の可能性について、大地の再生 代表・環境再生医 矢野智徳の案内のもと、現地見立てを行いました。

本レポートでは、梁川町に現存する樹齢500年を超える大欅とその周辺環境に着目し、自然共生型の地域づくりに向けた課題と展望を共有します。

梁川の自然と歴史的背景

梁川には、樹齢500年とも伝えられる欅の木がそびえ、かつて旧甲州街道を行き交う人への水場の目印として、また生活の拠り所として親しまれてきました。この地には龍神伝説も残されており、欅の木の下流には龍神が祀られていたという文化的な背景もあります(現在は上流のお寺に移設)。

龍神が移設され、祀られているお寺

欅の近くには、かつて豊富な水量を誇る沢があり、そこを流れる水を住民は炊事や洗濯など日常生活用水として利用していました。しかし現在、護岸工事により沢はコンクリートで三面張りされ、地表と地下の水脈が分断。地下水の滞留が進み、数年前には沢沿いで土砂崩れが発生、液状化リスクも懸念されています。

環境再生医 矢野智徳による見立て

矢野は、現地調査のなかで以下のような課題と可能性を指摘しました。

1. 水脈と地形を活かしたインフラ整備の必要性

この沢は地域の生態系と暮らしを支える「自然の血のり」とも呼べる水脈です。本来、旧甲州街道もそうした自然の流れを読み、風・水・地形と共鳴する道づくりがなされていました。

旧甲州街道。この並木や奥の竹林も伐採される可能性があるとのこと。
旧甲州街道。この並木や奥の竹林も伐採される可能性があるとのこと。

しかし現代の公共事業では、水脈や地形には配慮されないままに工事の計画が進められ、近隣住民へは決定事項として完成した工事計画が示されるという形式となっています。地域住民が知らない間に、地形や水脈の重要な構成要素でもある巨樹や竹林、雑木林が伐採され、木陰や風の通り道を失う恐れもあります。

2. 住民参加型の地域づくりへ

「今は“調整の時代”です」と矢野は語ります。環境の保全・育成・活用を一体とした再生事業が求められる今こそ、住民と行政が対話を重ね、共に調整しながら事業を進めていく必要があります。

手つかずで藪化してしまった沢(関東甲信越支部で今後整備をしていく予定です)
手つかずで藪化してしまった沢(関東甲信越支部で今後整備をしていく予定です)

地域の歴史や風土を読み解きながら、欅の木や水脈など自然資源を活かすことで、防災・減災にも繋がる持続可能なインフラ整備が可能になります。

3. 自然の機能を読み解いた施工へ

欅の根の張り方やその土地で担ってきた役割を無視し、表面的に「不要」として伐採することは、環境再生の観点から見直す必要があります。強度確保のための法面施工も、本来は木々が自然に担っていた機能を理解すれば、別の選択肢が生まれるはずです。

樹齢500年といわれる大欅
樹齢500年といわれる大欅

実際、欅周辺の崩れは表層崩壊にとどまっており、致命的ではありません。周辺の手入れを丁寧に進めることで、欅は今後も地域を支え、生態系の維持にも貢献できます。

地域の手による再生のはじまり


かつてこの沢が生活用水に使われていた頃は、定期的に地域住民の手により沢の上流から手入れをしていたそうです。沢の風通しを人の手で整え、空気と水脈を点穴処置によりつなぎ沢の景観を回復させると心地よい風の場が生まれます。風の流れる場所には自然と人が集まり、地域の「気」が変わっていく——それが矢野の見立てです。

龍神も祀られていた沢はコンクリート三面張りで気軽に手入れができない状況
龍神も祀られていた沢はコンクリート三面張りで気軽に手入れができない状況

水脈は、かつて地域の中心軸であり、人々の生活に深く根ざしていました。今はその機能も意識も薄れてしまっていますが、小さな手入れを一つずつ始めていくことで、住民の意識にも再び変化が芽生えていくでしょう。

未来への展望:梁川から始まる意識の転換

この梁川での取り組みは、単に自然保全や景観維持にとどまらず、「意識の再生」にもつながる重要な意味を持っています。地域の人々が、できることから手を動かすことで、都市部の人々の感覚にも影響を与える——梁川の活動は、そうした波及力を秘めています。

大地の再生 関東甲信越支部では、今後も住民と共に手を携えながら、自然と共生する地域づくりを進めてまいります。

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