長野県の御代田町、日本最古のカラマツの森林がある場所。
手入れがされず放置林となってしまったところに、これからの100年先を見据えて、植栽や環境整備を行いながら、自然とともに暮らしていくことをコンセプトにした施設と家作りのプロジェクトが昨年(2023年に)始まりました。
着手当時、全体にカラマツが群生し、風が通らず陽も当たらず、暗い雰囲気の場所でした。
施設や家を建てるため、木こりさんに依頼してカラマツを伐採してもらいましたが、伐採にあたり大きな重機が何度も往復したため、地面が締め固まった状態に。
この場所は、ちょうど谷筋にあたる地形ですが、(プロジェクト開始よりだいぶ前に)林道が作られたとき、この谷筋を埋めるように道路を作ったため、この道路が谷筋を通ってくる水の道を遮るようになっています。
これまでは、カラマツの根が水を吸収する役割を担っていましたが、伐採によりその機能が失われたため、雨が降ると大きな水たまりができ、何日も水が捌けない状態でした。
道路の下に暗渠を作って水を通すことが難しいため、水たまりになる場所に大きな点穴(大点穴)を作り、この点穴から地中へ水を浸透させるかたちにしました。
また、斜面の上流から、この大点穴へ向けて水脈を何本も通し、水脈の途中にも無数の点穴を入れています。
この水脈や点穴を通して、雨水が地中へと浸透していくようになり、地上部の水たまりや泥濘がなくなりました。
今回の作業日までに雨の日がありましたが、敷地全体で浸透が成されており、大きな水たまりも解消(大点穴により地中へと浸透、吸収)しています。
昨年(2023年)の開梱当初は真っ暗な森林でしたが、今は日が差し、小鳥の声がし始めています。
若干乾燥気味のため、乾燥に強い植物が生えていますが、雑木が育って日陰ができ、落ち葉が落ちて地面が育つと植生が変わってくるはずです。
この場所には、前述の通り、施設(ラボ)や家がいくつか建ちます。
水捌けの改善処置は、家を建てたあとでも可能ですが、家が建ってしまった部分(基礎や外構など)に手をいれることは難しく、部分的な改善に留まってしまうことが多いため、先に行っておくことが大切です。
道作り
そして…今回の大地の再生講座・工事。
敷地内での建設を行うにあたり、斜面の上の方まで工事車両が通行できるように、道を作ります(工事完了後は、生活道路となる予定)。
工事前の状態では、道路から斜面を登る際に傾斜がきつく、車両が登れません。
↓の画像で、左下から右上に向かって伸びる白い線のように、勾配を緩やかにすることが今回の工事となります。
盛土のみでは、そもそも土の絶対量が足りず。
また、重たい車両の往復により土が締め固められるので、土中の通気と通水いずれも遮断され、環境を悪化させてしまいます。
重たい車両が往復し続けても、土中への通気通水機能が維持されるよう、林業の道作りを参考にした施工を行いました。
使う資材は、丸太、枝木、割グリ石、軽石、土、炭。
丸太を組み、割グリ石・枝木・軽石・土を何層もミルフィーユ状にすることで、通気通水浸透機能を要した道になります。
なお、土と割グリ石のみでも道は作れますが、土の量がさらに必要であり、その土の量だけ土圧がかかって地面を締め付けてしまうため、今回は通気通水浸透を重視した施工を行なっています。
丸太は、上に組む方の丸太に切り込みを入れ、下の丸太としっかり組み合うように乗せます。
その丸太を固定するように、グリ石を詰める。
反対側には、枝を柵ませて、グリ石がこぼれ落ちることを抑え、泥水の濾過、有機物による菌の繁殖が促進されます。
次に枝木、落ち葉やチップを撒いて、土。
土を入れた後は、ユンボで踏んでしっかり転圧。
車が多数通るので、その往来で崩れることのないように、しっかり行います。
その上に、軽石。
軽石は多孔質で水捌けがよく、質量が軽いため大量に入れても道に重みを持たせにくい特徴があります。
この軽石を入れることで、通水性を保ちやすくなります。
この繰り返しで積み上げながら、緩やかな傾斜を作っていきました。
なお、丸太を交互に組み、上からの重さも利用して丸太のズレ・崩れを抑えるようにしていますが、その押さえのない丸太も存在します。
このような丸太にはアンカーを埋め込んで固定。
このアンカーを引っ張った状態で土に埋め、圧をかけていくと固定され、丸太が落ちないようになります。
施工後の丸太や枝、グリ石の間には隙間や遊びがありますが、風雨により朽ちてくると隙間が自然と馴染んで埋まり、菌が接着剤の役割を担い、しっかり安定してくるようです。
完成にはまだ数回の工事が必要なため、今回の講座・工事は途中までで終了。
2日目の工事をタイムラプスでもご覧ください。
大点穴
道作りと並行して、大点穴の処置も行いました。
木を多数伐採したことで、木が担っていた「空気と水を循環させる機能」が失われているため、この大点穴がその機能を代用するかたちになります。
斜面の上から下(大点穴の場所)へ、水脈を伝って落ちてきた水の流れに沿った渦の形を大点穴に設ける作業です。
作業前のすり鉢状では、風雨でグランドカバー(落ち葉など)が流されやすく、土の表面が出てしまっているので、乾燥して崩れてしまいます。
そこで、土留めを螺旋状に、大点穴の外周から中心へ向けて水が落ちていくように施工することで、雨水を止めて浸透させ、グランドカバー(落ち葉)で乾燥と崩れを防ぎ、落ち葉が分解されて土の団粒化が促進されるかたちにしました。
渦の向き、作る順番、役割分担など…参加者で話し合いながら、結の作業を深めていきました。
ちなみに、螺旋の中心部にも点穴を入れ、焼き杭を打ち込みました。
仕上がりはこちら↓(上からの動画でご覧ください)
その他
作業現場には、縄文式トイレを設置しています。
深めの点穴をあけて、炭と落ち葉を入れてあります。
周囲も木や竹で壁を作って覆い、プライバシーを確保。
用を足したら、炭と落ち葉を穴の中に撒いておくと、微生物による分解が行われ臭いも出にくくなります。
なお、トイレットペーパーは分解されないため、ゴミ袋に入れて持ち帰っています。
災害時の簡易トイレの作り方・使い方の参考にしていただければと思います。
御代田の道作りのレポートは以上です。
今後も講座・工事の開催を予定していますので、その際はWEBサイトやSNSにてお知らせいたします。
- 講師:赤尾和治、藤井麻紀子
- 写真・撮影:林光(SIROKURO)