山梨県大月市で定期的に開催している『小さな防災の家』
今回は、大地の再生 関東甲信越の副支部長、植木職人の根岸大輔さんによる『風の剪定講座』です。
小さな防災の家を始めたきっかけ
開催場所は畑と庭のある小さな平屋の一軒家。
約40年前にお仕事をリタイアされた都心のご年配夫婦が「最後は土のある場所で暮らしたい」と、余生を過ごされた場所。
その後、ご高齢となり使われなくなって25年間ほど空き家でした。
約6年前に近所の方の紹介で借りて住み始めた当時は、敷地全体が篠竹やカヤ、アシで覆われていたようです。
その後、水脈整備や篠竹の手刈り、風の剪定、風の草刈りや植樹などをコツコツ続けてきた結果、篠竹はだんだんと減っていったとのこと。
2019年の台風19号の際、桂川の斜面で倒木が多くなり、敷地の水はけや様子の変化を認識したことをきっかけに、「防災の切り口で学びや実践ができる場所を皆さんへ開放したい」と考えるようになり…
2022年から『小さな防災の家』と銘打って、1ヶ月に1回のペースで開催しています。
風の剪定〜美しい枝の見極め方
参加者の自己紹介を終えて、剪定講座をスタート。
剪定には「美しい枝の見極め方がある(根岸さん)」とのこと。
近くにあった高木で、根岸さんの見立てを学びました。
まず、木全体を線で見て、力を分散させていくこと。
幹から枝に向かってエネルギーが通っているので、それを綺麗に流すようなイメージを持つことがポイント。
木を真下から見て、枝の重なっている(詰まっている)ところを見つけていきます。
詰まりを見つけたら、そこを切るのではなく「透かす」
この「透かす」とは、詰まらせている枝を幹の方へ辿り、分かれ目の部分で切っていくことを言っています。
幹から枝先への流れを見ていけば、不自然なものがある。
枝先に向けて細くなるのに、一部に強いところがあるので、この強い枝を抜いて(透かして)、枝全体にエネルギーがバランスよく通るようにしていく。
枝を透かしたあとは、風に大きく揺れる枝先を、揺れる所で刈る。
というのが、剪定するときのイメージ。
このようにしていくと、エネルギー分散と細根化が進み、全体が小さくまとまっていくようです。
枯れ枝は手で揉んで、手感触で取れるものを取ります。
時々俯瞰して見て、重たい部分、詰まっている部分を抜いていきます。
ちなみに迷ったらどうするかというと、
切らないで様子を見ていく。
またしばらく経って見直したときの木の状態から、切る必要があるのかないのかを、その時判断する。
とのこと。
垂れている枝は、先を切って軽くして上に上げる。
木のエネルギーは上へ上がっているので、その流れに沿ったかたちにすることで木は元気になっていきます。
ここまで説明を受けましたが、やはり実践しないとイメージを掴みにくく。
初めのうちは切り枝で練習して、イメージを具体化するのが良いです。
その切り枝を大きくしたのが、木です。
ということで、切り枝を使って練習。
ちなみに…
透かして落とした枝は、できるだけ細かくして根回りにグランドカバーにします。
その木自身の枝が、その場所において一番分解が早いためです。
一通りの説明を受け、実践に移りました。
この日のために剪定せずに残していただいていた低木の剪定を、根岸さんから教わった見立てを思い出しながら、それぞれ実践。
剪定していると、色々と気になって、どんどん剪定してしまいがちですが、
自分のやりたい気持ち(イメージ)の6割程度で抑えるのがポイント。
ただ、どうしてもやり過ぎてしまうことは、初めのうちはよく起こります。
やり過ぎても仕方なし。
やり過ぎたあと、どうすればよかったのかを振り返り、次回に活かす。
実践と振り返りの繰り返しが、剪定力を高めていくために必要なことです。
こちらがBefore(作業前)
こちらがAfter(作業後)
午前中の作業はここまで。
高木の処置
午後は高木の処置のレクチャー。
見立ては午前中話していただいたことと同じ。
高木は参加者には危険なため実践はせず、根岸さんの高木剪定を見るかたちに。
スルスルと木に登っていき、10分程度で剪定終了。
ここで、多くの参加者が「根岸さんのノコギリがよく切れる」ことに気づきます。
ケーキを切るようにサクッと切れる。
富山県氷見市にある須藤鋸店さんのノコギリとのこと。
刃の間にスリットが入っており、このスリットから木屑が掻き出されるのでスムーズに切れるようです。
「ネギシ刀」と名づけられ、講座終了後に参加者7-8名が注文していました。
根岸さん自身も300mmの「新ネギシ刀」を注文されたようです。
低木の剪定つづき
残りの低木の剪定を進めます。
こちらもBeforeと、
After。
写真では伝わりにくいかもしれませんが、作業後は風通しが良くなったことに加え、光の入り方、風景(見た目)も明るく、柔らかくなりました。
最後に、剪定のおさらいをして講座は終了。
- 幹から枝を見る(枝先は見ていない)
- 枝が溜まっているところ、重なり合っているところを抜いていく
- 枝の流れに沿って、違和感のあるところを抜く
小さな防災の家、9月以降も開催予定です。
今のところ以下を予定していますので、詳細は適宜、大地の再生 関東甲信越のWEBサイト、Facebook、Instagramでお知らせいたします。
- 9月:風の草刈り講座
- 10月:ユンボ講座
- 11月:剪定講座
- 12月:水脈講座
おまけの質疑応答
剪定については、参加者も色々と疑問を持っており、次から次へと質問が飛んできました。
いくつか紹介します。
- 木を大きくしたくない時はどうすればよいですか?
-
日向で大きくなる木を大きくしたくないというのは、不自然なこと。
もともと大きく育つものは、その通りに育てることが、大地にとっては良いことなので、この考えを持って、その木が自然な状態で剪定していけば木は落ち着いていきます。
- 松の剪定はどうしたらよいですか?
-
まずは古い葉を取る。
伸ばす(高木にする)場合は、まわりの枝を払って上に伸ばして、エネルギーを上に集中させる。
逆に太らせたい(小さくまとめたい)場合は、下の方の枝を残して太らせてください。
松の木が向かいたい方向があり、その方向へ強い枝を残してあげると伸びやすくなります。
その反対側は、バランスをとる程度に残しておくのが良いです。
- 紫陽花の剪定を教えてください!
-
古い(木になっている)枝をできるだけ残して、新しい枝や、花のついていない長い枝、根元に張っている細かい枝を根本から抜いていきます。
根本をすっきりさせてあげてください。
ちなみに、新しい枝は何本か残して、古い枝の次世代として育てていく感じで。
花の咲いた枝は、花のついたところから1、2個下がったところで切る。
紫陽花は全体的に丸く仕上げることが一般的ですが、それよりは透かしてあげたほうが、紫陽花らしい感じになります。